作業日 : 2011年07月05日
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※※とりあえず暫定的にアップしています。もしかすると、近日中に別の場所に引っ越す可能性のあるページです※※


 ひじょ〜〜〜〜〜に長くなりますが、ソルブスポーツサスに関する、コンセプトや考え方をまとめてみました。
 なお、現在開発中の『JB43専用 スーパーソルブ3インチアップコイル』も、全く同じコンセプトで鋭意制作中です!!



 ・・・その前に、サスペンション(というか、サスペンションに使用されるバネ)の基本的な動き方に関する基礎知識から。

 真っ平らな地面に、何もせずにポツンと止めた状態(以下:1G状態)や、路面コンディションのいいアスファルトの路面をゆっくり走る場合、ぶっちゃけ、バネの種類が何であっても、バネの硬さがどんな状態であっても影響はありません。それどころか、サスペンションという構造があろうがなかろうが、全く問題は起きないでしょう。

 これが、走行速度が高まったり、路面コンディションが凸凹し始めたり、加速や減速を繰り返したり、ステアリング操作が加わったり・・・などなど、車体に「挙動」が発生するような運転をするようになると、サスペンションの動きがどんどん重要になります。

 具体的には、走行速度は高いほど、路面コンディションは荒れているほど、加速or減速は強烈なほど、ステアリング操作はキツイほど、サスペンションの縮み具合が大きくなります。
 もし、サスペンションが極端に縮みやすい車両で、より高い速度を出したり、急激な加速や減速を繰り返したり、慌ただしくステアリングを切ったりすると(以下、そういった運転を総じて『スポーツ走行』と呼ぶことにしましょう)、車両が前後左右に大きく傾き、非常に危険な状態になります。もちろん、ドライバーや同乗者も恐怖を感じることでしょう。

 そういった理由があり、スポーツ走行に主眼を置いたサスペンションには「より縮みにくいバネ=バネレートの高いバネ」を使用します。

 ちなみにですが、バネレートとはバネの縮みにくさを示す数値で『そのバネに対して何kgの負荷を掛けると1mm縮むか?』という意味を持ちます。
 なので、例えば「2.0kg・mm」というバネレートだとすると、そのバネに対して2.0kgの重さを加えると1mm、20kgの重さを加えると10mm・・・という具合に縮んでいきます。

 バネレートの高いバネは、高い速度で走っても挙動が落ち着きやすく、強烈な加速や減速をしても車両の前後方向の暴れ(専門用語で「ピッチング」と言います)も抑えられます。
 また、急なカーブで激しくステアリングを切ったり、S字カーブをキビキビ走らせても、車両が横方向に傾く量(専門用語で「ローリング」と言います)も抑えられます。
 さらに、その際に車両が曲がる方向に動くレスポンス(専門用語で「ヨーイング」といいます)を早めることも可能です。

 ・・・なんですけど、むやみにバネを硬くすればいくらでもスポーツ走行に適していくのかというと、答えはNOになります。
 最も想像しやすいのが、バネレートをどんどん高くする=サスを縮めさせたくない=サスペンションが全くない車両となるワケですが、もし、サスのない車両で高速走行をすると、路面のギャップを踏んだ瞬間に車体全体が持ち上げられ、どこに飛んでいくか分からない状態になります。

 加速or減速時やステアリング操作時も同じで、サスペンションストロークがないため、何かの操作に対して一気にタイヤのグリップを使い切るので、ドライバーのちょっとした操作でとんでもないスリップを始ることは、想像に難くないでしょう。

 柔らかすぎるバネもスポーツ走行には適しませんが、硬すぎるバネでも「走らない・曲がらない・止まらない」状態に陥ります。
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 続いてちょっと話の角度を変えて、もうひとつサスペンションのバネに関する考え方です。

 仮に2種類のバネがあるとします。で、どちらのバネも装着する車両に対してバネレートが適正値だとして、「路面の凸凹に対して足がピンと張った感じで頑張っているタイプのバネ」と「グニャグニャと伸び&縮みを繰り返すタイプのバネ」があるとしたら、どちらが乗り心地に優れると思いますか?

 結論から書くと、これはちょっと引っかけ問題でして、速度域が低い場合はグニャグニャと伸び&縮みを繰り返すサスの方が突き上げ感が少なくジェントルな乗り心地になりますが、車速が高くなってくると、車体に落ち着きがなくなり、褒めて乗り心地がいい状態ではなくなります。
 反対に、足がピンと張った感じのサスは、速度が低い場合はゴツゴツ感が出やすくハードな印象を受けやすいのですが、ある速度域を超えたところからサスペンションの縮む量が速度に比例して増えるため、乗り心地がしなやかに感じられるようになります。

 サスペンションに使用するバネは、車高アップ量はどのくらいか? という単純なものではなく「どういった仕上がり性能にしたいのか?」「どういったステージを得意にしたいのか?」「どういった運転スタイルに合わせるか?」「当たりの車速は?」・・・といったことまでを踏まえてチョイスする必要があるんです。
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 前置きだけでA4用紙で2枚分ほど書きましたが、ここからがソルブスポーツコイルの解説です。

 JB23用サスペンションコイルの中でも特に、見た目に大きな特徴があるのがソルブスポーツコイルです。その見た目の特徴は大きく3つあります。

 1つ目が、1G時に下側の2巻き(リアは3巻き)が線間密着している点。
 2つ目が、不等ピッチ巻きに仕上がっている点。
 3つ目が、コイル全体が樽型形状になっている点。

 それでは、それぞれの見た目の特徴が、どういった仕事をしているのかをご説明していきます。



 まず1つ目の「下側の2巻きが線間密着している点」から。
※※フロントコイルに的を絞って解説します※※

 バネに荷重を掛けていない状態の際は、下側の2巻きは線間密着させず、10巻きのコイルとして仕事をさせます。これにより、サスペンションの伸びきり一杯まで、しっかりと路面に圧力を掛けることが可能となります。
 この性能は、特にクロスカントリー4WD車のサスペンションだと、不整地でのトラクション性能に影響する大切な要素なので、非常に重要なポイントといえるでしょう。

 バネに荷重が加わり縮んでいくと、あるストロークのポイントで下側の2巻きが線間密着を始めます。線間密着を始めた瞬間から、10巻きだったコイルが8巻きのコイルに変わるので、一気にバネレートが跳ね上がります。

 この理屈が理解できない人は、割り箸を半分に折ることを想像してみてください。普通の長さだと簡単に折れますが、半分の長さだと? 1/3の長さだと? ・・・という感じで、長さが短くなるにつれて、どんどん折りにくくなります。

 実はバネも同じで、長さが短くなると「バネを変形させる(≒割り箸を折る)のが大変になる=バネレートが上がる」のです。

 コイルスプリングの場合「巻き数が減る=バネ全体の長さが短くなる=バネレートが上がる」んですね。

 ちょっと余談ですが、昔、貧乏なヤンキーがシャコタンを作る際、サスペンションのバネをカットして・・・というのが常套手段でしたが、非常にヒョコヒョコして乗り心地が悪かったですよね?(←誰に同意を求めてる?:笑)
 これは、コイルを短く切ったせいでバネレートが極端に高くなりすぎた結果というワケです。


 逸れた話を元に戻しましょう。


 ソルブスポーツコイルは、10巻きが8巻きに変わるポイントを「1G状態のギリギリ直後」に設定しています。
 このようにすることで、車速が低い時や路面のギャップが極めて小さい時、ステアリングの操作量が微量の時、加速or減速の度合いが少ない時は「グニャグニャと伸び&縮みを繰り返すタイプのバネ」となるようにしています。なので、ドライバーがやる気がない時の乗り心地はムチャクチャしなやかでジェントルです。

 これが、車速が上がり、ステアリングの操作量が増え、加速or減速の度合いが大きくなったり、はたまた路面のうねりや凸凹が大きくなり、サスペンションが1G状態よりもほんのり沈み込むと「足がピンと張った感じのサス」になり、車速に応じた乗り味へと変化します。スポーツサスとしての本領発揮です。

 このように、特徴の異なる2つの顔を持たせることに成功している理由の1つが「線間密着」という手法だったんです。・・・が、活字で書くと、スイッチを切り替えたように突然硬くなったり、はたまた肩すかしを食らったように急に柔らかくなったりしそうな印象を受けますが、実際に乗ってみると全くギクシャク感はなくむしろ自然です。そのあたりの理由は2つ目と3つ目の特徴も組み合わせているからなんです。
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 というわけで、続いて2つ目の特徴の「不等ピッチ巻きに仕上がっている点」をご説明します。

 コイルバネの巻きを真横からじっと眺めた際に、バネの巻いている間隔が概ね同じ隙間なものが「等ピッチ」、狭い隙間と広い隙間があるものが「不等ピッチ」といいます。

 等ピッチのバネは、縮ませ始めのバネレートも一杯まで縮ませた時のバネレートも概ね同じなのが特徴です。
 余談ですが、タニグチ製品だとJB23用サスの「ソルブ2インチアップコイル」や「ソルブ3インチアップコイル」、はたまたJA12&22用の「ソルブ30mmアップコイル」はまさに等ピッチコイルです。

 これが不等ピッチになると、縮ませ始めの時は間隔の狭い所のバネが積極的に仕事をするため柔らかいバネレートとなり、そのままさらに縮めていくと、間隔の広いバネがメインで仕事を始めるので硬いバネレートとなります(以下、サスストローク量が大きくなるに従ってバネレートが硬くなるものを「可変レート」と呼びます)。

 ソルブスポーツコイルの場合、下側の2巻きが線間密着をする特殊な巻き方なので、この形状というだけで厳密に言うと不等ピッチ巻きなのですが、実は、線間密着をしないストローク領域も不等ピッチ巻きに仕上げてあります。


 ちょっと開発秘話的な話になるのですが、元々、ソルブスポーツコイルは40mmアップのサスとして製作することでプロジェクトが始まりました。
 なぜ40mmアップか? と言いますと、あまりにも長いバネを3リンクリジッドで縮めるのは、ちょっと無理があると考えたのと、太めの線径のコイルを少ない巻き数にすることで、実際のバネレート以上にハリのあるフィーリングに仕上げたかったからです。
 このあたりは、かなり偏った話になるので詳細な解説は割愛しますが、サスマニアな人たちが言うところの「活きたバネ」というのが最終目標だったんですね。

 そこで、初期のストローク時は『しなやかさが演出できるように巻きの間隔が狭い箇所を利用してソフトな乗り心地を演出』しつつ、多少大きめにサスがストロークしたときには『巻きの間隔が広い箇所を利用して踏ん張ってくれる』という可変レートコイルを設計したワケです。
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 さらにそのまま、3つ目の特徴である「コイル全体が樽型形状になっている点」についての解説に入りましょう。

 可変レートコイルを作るもうひとつの手法として、樽型コイルがあります(似た方法として「つづみ型コイル」もありますが割愛)。

 樽型コイルとは読んで時の如く、コイルを真横から見た場合に、中央付近がボテッと太く、反対に上下が細く絞られている形状のコイルです。

 このように巻きの細い場所と太い場所を作ることで、バネの縮む量が少ない時は、太い巻きの場所を積極的にストロークさせることで柔らかいバネレートとし、大きく縮む際には、巻きの細い場所をストロークさせることでバネレートを跳ね上げることが可能となります。

 狙っている性能は2つ目の特徴である不等ピッチと全く同じなのですが、実は樽型コイルにはもうひとつ大きな特徴があります。

 それは「偏らせてバネを押しつけた際にも、比較的真っ直ぐ縮んでくれる」のです。

 JB23を代表する3リンクコイルリジッドサスの場合、車高を上げれば上げるほど、コイルスプリングのフレーム側マウントとホーシング側マウントの位置関係が壊れやすいと言えます。
 具体的に言うと、本来、上下のマウント同士は平行でなければならないのに、車高アップ量に比例して、かなり角度が付いた状態になります。

 その結果、JB23に3インチアップ以上のコイルを装着した場合、平行ではないコイルマウントにアコーディオンの如く無理矢理押しつぶされるため、コイルが大きく湾曲してしまい、フロントコイルであれば後側の内側がバンプラバーの土台に干渉するし、リアコイルであれば、リアショックと擦れたりといったトラブルが起きるのです。

 このトラブルを少しでも改善するため、車体に収まるギリギリの寸法まで樽型に仕上げることで、平行ではないコイルマウントに無理矢理押しつぶされたとしても、湾曲しにくい設計としたのです。


 不等ピッチや樽型コイルによる可変レートの設計のほか、コイルがなるべく真っ直ぐ縮んで真っ直ぐ伸びる状態にしたことで、スムーズなのに腰がある足まわりが作れることは判ってきました・・・が、どんなにこだわりがある味付けでも、40mmアップのサスだとちょっと見劣りしますよね? せっかくお金を払うなら、最低でも50mm(≒2インチ)アップ、欲を言えば2.5インチ(≒63.5mm)アップくらいにはしたいもの。

 そこで、1つ目の特徴に戻るワケですが、40mmアップとして設計したコイルスプリングに、線径12mmのコイルを2巻き分だけ線間密着させることで、結果として約60mmの車高アップコイルとしたワケです。

 さらに、完全に伸びきった10巻きの状態から、可変レートコイルの仕事を存分にさせているので、8巻きに切り替わる時にも突飛な印象を全く与えないのです。
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 ここで少しだけ車高に関する余談です。JB23のサスレイアウトを真横から眺めて欲しいのですが、ノーマル車の場合はリアのトレーリングアームはホーシング側よりピボット側がやや下方向を向いています。
 この状態から車高をどんどん上げていくと、トレーリングアームは地面と平行になり、最終的には上を向き始めます。
 オフロードでキモとなるトラクション性能ですが、実は、トレーリングアームの取付角度が非常に重要で、一般論としては地面と平行が最も効率がいいと考えられています。
 実は、JB23で60mmアップに仕上げた場合、トレーリングアームの取付角度がほぼ平行になる数値なんです。
 クロカンマシンとしての仕上がり、ダートマシンとしての仕上がり、もちろん一般道での操作性を踏まえたドレスアップマシンとしての仕上がりを踏まえても、60mmアップという車高は非常に理にかなっているんですよ!!
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 では、コイルスプリングの特徴に対する説明はこのくらいにして、実際に走らせた時の特徴がどういった感じになるのかを簡単にまとめておきます。

 とにかく最大の特徴は『さりげない二面性』です。前述した説明でも、ジェントルな乗り心地とスポーツ走行に適した踏ん張り・・・みたいなフレーズが何度も出てきましたが、すこぶる乗り心地がいいのに、かなりヤンチャな走りにも応えてくれます。

 乗り心地がいい方の説明は、何とも説明が難しいので割愛しますが(←でも、ホントにしなやかで乗り心地がいいんですよ!!)、他社ではたぶん「こんなバカなマネはしていないと思われる一般道でのテスト内容」を書いておきます。

 タニグチの近所を南北に走る播但連絡道路(←兵庫県道路公団が運営する高速道路)の追い越し車線を、昔、オリックスや阪神で活躍した投手、星野伸之氏の投げるストレートくらいの速度で走り、車線を分ける点線1本分だけでレーンチェンジ・・・ということも行ないました。
 スポーツ走行性能はもちろんとして、緊急回避能力に関しても一般的な2〜3インチアップサスの比ではないかと思われます。

 続いてオフロードですが、こちらも非常に面白い仕上がりです。可変レートの特徴である「縮めば縮むほど跳ね上がるバネレート」が、車体の安定感をより高めてくれるので、ギャラリーがギョッとするような地形での安定感も抜群です。

 この特徴は、板バネジムニーユーザーがJB23に乗り換えた際によく言う「コイルジムニーは、クロカンだとフラフラしてコワイ」というヤツを払拭できるレベルなんで、板バネからの乗り換え組な方にもお勧め出来ます!!

 また、どちらかというとゆっくりクローリングという走り方よりも、テンポよくリズミカルに走る方が得意なサスなので、競技指向の強い方ほど喜んでもらえるかと思われます。
 トライアングル、JSTC、減点制トライアルのSSステージなどは水を得た魚状態でしょう。

 さらにハイスピードダートですが、こちらは、テストだけでなくお客さんの試乗などでも幾度となく試している得意なステージ。よほどのことがない限り、車両を支配下に置けるくらい超安定志向なサスなので、ドライバーさんの技量に合わせて楽しむことができるかと思います。
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 そして最後になりますが、ソルブスポーツコイルの寿命についてです。

 これだけ凝った設定のコイルだと、バネのヘタリを心配される方も多いことでしょう。特に、一般的なコイルスプリングの場合「線間密着をさせる=コイルにとどめを刺す行為」なので、バネに詳しい方ならなおさら心配だと思います。

 でもご心配なく!!

 バネを製造する際に、必ず「セッチング」という工程を行ないます。これは、完成したバネに対して、縮めすきて壊してしまう寸前の数値まで専用の機械で押しつぶすことで、初期ヘタリを強制的に発生させ、結果としてバネの強度を高めるメニューのことです。

 で、このセッチングを行なうにあたり『どのくらいのバネ高さまで縮めるか=縮めすきて壊してしまう寸前の数値』なワケなんですが、実は、ソルブスポーツコイルの左後に限り「全圧(←完全に線間密着)」という指示なんです!!

 要は、完全線間密着まで押しつぶしたとしても、このバネはヘタりません、とバネ屋さんから太鼓判をもらったという意味なんですね!!

 A社さんやP社さんのように、バネ鋼材に特殊な金属を混ぜたりはしていませんが、バネの設計を徹底的に煮詰めることで、ヘタらないバネも設計できるんですよ・・・という自慢でした!!


 なお、ヘタリにくいバネ=馴染みに時間が掛かるという関係で、車両に装着直後はハリの強い印象を受けることがしばしばあります。正直「言うほどしなやかぢゃないゾ!!」ということもあります。

 晴れてソルブスポーツコイルオーナーになられた皆さんにお願いですが、オンロード走行だけでも結構なので、1ヶ月程度(1000kmくらい)だけ慣らし運転にご協力ください。
 普通に使って頂くだけで初期馴染みが出て、その後はソルブスポーツ本来の『さりげない二面性』が顕れます。

 そうそう!! この『さりげない二面性』が顕れるまで、ネットとかのカキコに「ソルブスポーツは硬い」とかって書かないよ〜に(笑)。

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